みゅ〜♪SS 『one〜血塗られた季節へ〜前編』 作・めがね大臣
ONE 〜血塗られた季節へ〜 前編

第一章 七瀬留美
第二章 里村茜
第三章 上月澪



































































第一章 七瀬留美

1
「ちょっとぉ、早く起きないとホントに遅刻しちゃうよぉ!」
「・・・」
「浩平!」
 折原浩平と、長森瑞佳。
 いわゆる、幼なじみという存在の二人の朝は、いつもこの声から始まる。
「ホントに、もう時間がないんだってばー!」
「ぐー」
 浩平は、ひたすら朝に弱い男である。毎朝起こしに来る瑞佳の労力は、並みではないのだ。
「早く起きてくれないと・・・」
「・・・」

 ズボォッ!!

「殺しちゃうよ」
「ぐはぁあ・・・」
 瑞佳の手刀が、浩平の腹部を布団ごとつらぬいていた。
 ブシャアアアア!
 一瞬遅れて、凄まじいまでの血しぶきが上がる。
「あらら、死んじゃった。じゃあ、わたし先に行くね」
 長森が部屋を出る。
 ぴくぴくと数回痙攣した後・・・浩平は、動かなくなった。

2
「おはよー、瑞佳・・・って、げえ!」
「あら、どうしたの、七瀬さん」
 通学路で瑞佳と出くわした七瀬留美は、その瑞佳のいでたちに、思わず声を上げずにはいられなかった。
 なにせ、全身血まみれで微笑んでいるのだから。
「どうしたのって・・・その血・・・」
「え?ただの浩平の血だけど?」
「は?」
「だから、浩平を手刀で貫いた時の返り血だって」
「・・・」
 しーん。
 一瞬の間の後。
「あはははは。なーんだ、あたしを驚かそうと、折原と共謀してんのね。マジで驚いちゃったわ、一瞬」
「あははは。何だか知らないけど、早く学校行こう」
「そうね」
 最後まで、七瀬はその血が本物だということに気付くことはなかった。

3
 瑞佳と七瀬が通学路で出くわした頃。
 椎名繭は、浩平の家の前まで来ていた。
 前に、一度だけ来たことのある浩平の家。
 今日は、浩平と一緒に学校へ行こうと、記憶をまさぐってここまで来たのである。
「みゅー・・・(注 あのバカ、家にいるかな・・・)」
 ぴんぽーん。
 繭はチャイムを押すが、一向に浩平が出てくる様子はない。
「みゅー(注 わたしが向えに来てやってんのに、早く出てこいよ、このクソが)」
 ぴんぽーん、ぴんぽーん、どんどんどんどんどん!
 だが、繭がいくらドアを叩いても、何の反応もない。
「みゅー・・・みゅー(注 このクソが・・・上等じゃねぇか、今行って、殺してやるぜ)」
 ドガン。
 繭は、ドアを蹴飛ばす。鍵はかかっていなかったらしく、あっさりとドアは開いた。
 どかどかどか。
 そのまま土足で、繭は浩平の部屋まで行き、そして、扉を開ける。
「みゅー!(注 おら、早く起きろよ、このボケガキが!殺すぞ、ワレ!!)」
 だが、浩平は起きる様子がない。
 そこまで来て、繭は部屋の異様な雰囲気に気付く。
「みゅ・・・?(注 なんだ?血まみれじゃねぇか、この部屋)」
 その血の持ち主は、どうやら浩平らしかった。
 だが、肝心の浩平は、どこにもいない。
「みゅー・・・(注 バカな・・・一体何が・・・)」

4
「・・・」
「あら、繭。ちゃんと学校来たのね。偉い偉い」
「ふいふい(注 偉い偉いじゃねえよ、この年増女が)」
 繭は、瑞佳に走りよって、いつものように鼻をすりすりする。
 その繭の鼻を、つん、と何かの匂いがつく。
 血だ。
 浩平の部屋に行った時も、同じ匂いをかいだ。
「みゅーは?(注 てめー!浩平をどうしたんだ!?)」
「うん?浩平?浩平はね・・・」
 その瞬間、瑞佳の口の端がきゅう、と歪んだが、繭はそれに気付かなかった。
「七瀬さんがね・・・」

「で、何よ。まさかまた、髪の毛引っ張る気じゃないでしょうね?」
「みゅー・・・!(注 てめーが浩平を殺したんだな!?絶対許さねぇ!!)」
「な、何牽制してんのよ・・・やる気?」
「みゅー!(注 当然だ!バラしてやるぜ!!)」
「じょ、上等じゃない!!」
 七瀬は、繭の殺気に気付いて、構えを取る。
 どこにも隙のない、完璧な構えであった。
「・・・」
「・・・」
 二人は、にらみ合ったまま動かない。
 実力が伯仲している場合、先に動いた方は不利になることが多い。
 どちらかが動くのを、全神経を集中して待つ・・・
「・・・」
「・・・!」
 刹那、七瀬の身体が虚空に掻き消えた。
 いや、消えたのではない。目で追えないほどのスピードで、移動したのだ。
「もらったぁああああああッ!」
「・・・!」
 突然七瀬が、手刀を構えて空中から降りてくる。
「みゅー!(注 くたばるのはてめぇだーーー!!)」

 ドゴォ!!

 繭の蹴り上げた右足と、七瀬の手刀がぶつかり会う。
 その瞬間、繭の立っていた地面が、めりめりと陥没する。
「さすが、毎日あたしを追っかけまわしてただけはあるわね!けれど・・・」
 七瀬は、その手を軸にしてくるりと回転する。
「甘いわねッ!」
「・・・っ!」
 軸で回転し、七瀬は繭の延髄に遠心力で蹴りを入れる。
 ドゴォ!
 まともに食らった繭は、凄まじい勢いで吹き飛ぶ。
「フン。百年早いわね。はや・・・な、なに・・・!?」
 勝ち誇った瞬間・・・七瀬は、自分の身体に異常を感じた。
「身体が・・・動かない・・・!?」
「みゅー・・・(注 フフフ。どうやら、甘いのはてめーの方だったようだな)」
「何をしたの!?」
「みゅー(注 真一という秘孔をついた。おまえは、自然に喋り出す)」
「く・・・口が勝手に・・・」
「みゅー・・・(注 おまえが、浩平を殺したのか?)」
「ち、違う・・・」
「!」
 真一にかかった相手は、絶対に嘘をつくことが出来ない。
 つまり、七瀬は浩平を殺してはいないということだ。
「みゅー(注 ちっ。とんだ茶番だ)」
「助けてくれ!あたしは何も知らない!」
「みゅ−(注 フン。わたしが、何故おまえを助けねばならん)」
 ざっ。
 繭は、身動きできない七瀬の前に立ちはだかる。
「や、やめ・・・」
「みゅみゅみゅみゅみゅみゅみゅ(注 オラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!)」

 ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

「どべらぁあああ!!」
 繭の超ラッシュをガードなしで受けた七瀬は、空高く舞い上がり・・・砕け散った。
「みゅ(注 汚ねぇ花火だ)」
 そして、繭はその場から去った。





第二章 里村茜

1
「・・・」
 里村茜は、クラスの美少女コンテストで、二位になるぐらいの美少女であった。
 物静かな少女で、物思いにふける彼女は、まるでどこかのお嬢様のようである。
「・・・」
 来る。
 茜は、誰にでもなく・・・心で呟いていた。
 巨大な殺気が、もうすぐここへやってくる。
 また、戦わなければならないのか・・・
 ガタン。
「・・・」
 茜は、立ち上った。
 おそらく、激しい戦いになるだろう。クラスの人間を巻き込むわけにはいかなかった。

2
 ビュオオオオ・・・
 屋上。
 茜と繭は、対峙していた。
「・・・あなたですか。この殺気の主は」
「みゅー・・・(注 てめーだったのか・・・浩平を殺したのは・・・)」
「・・・生かしておくわけにはいきません。魔物を討つのが、わたしの仕事ですから」
 スラリ。
 茜は、長身の剣を引き抜いた。
 よく磨き込まれているらしく、鏡のように茜の端整な顔を映し出している。
「・・・」
「・・・」
 シュ!
 その瞬間、二人は動いた。

 ガキン!!

 茜の剣と、繭のモーニングスターがぶつかり合う。
 パワーの上では繭の方が有利であるが、それをテクニックで茜はいなしていく。
「戦闘力一万・・・二万・・・三万・・・ぐっ!」
 ドウン!
 茜の頭に何時の間にか装着されていたスカウターが、いきなり爆発する。
「戦闘力三万を超えるとは・・・なんて危険な存在!」
 ブン!
 茜の剣が空振りする。その瞬間を狙ったように、繭が懐に飛び込んでくる。
「くっ!」
「みゅー!(注 死ねやぁあああああ!!)」

 ドゴォ!!

「ぐ・・・ぐはっ!!」
 繭のモーニングスターが、茜の身体を見事に捕らえていた。
 屋上のフェンスまで、茜は吹っ飛ぶ。
「みゅー(注 魔物を討つ者だと・・・?へっ、たいしたことねーな、ザコが)」
「く・・・さすが、戦闘力三万を超えるだけはありますね・・・」
「!」
 なんと、茜は立ち上った。ダイアモンドをも砕く繭のモーニングスターを、あの至近距離で受けて・・・
「ですが・・・力だけでは、わたしには勝てませんよ・・・」
 ゴゴゴゴ・・・
「!」
 茜の身体から、強大な力が解放される。
 バチバチバチ・・・
「知っていますか。この広い宇宙には、変身型の人間もいるということを・・・」
「?」
「通常時に、無駄な体力を消耗しないため、というのがもっぱらな理由ですが・・・わたしの場合は違いますよ・・・」
 ゴゴゴゴゴ・・・
「わたしは、あまりに強大なエネルギーを自分でもコントロールしきれないから、変身するんです」
「みゅー(注 バカな・・・なんてでかい気だ・・・)」
「うおおおおおお!!」

 メキメキメキメキメキ!!

「・・・」
「・・・」
 シュウウウウウ・・・
 変身を終えた茜が、砂煙の中から姿を現す。
 それは、もはや茜の風貌を残してはいなかった。
 長かった髪の毛はすべて抜け落ち、代わりに角が生えている。
 それも、肌の色もナメック星人のように緑色だ。
「こうなってしまったら、前のように優しくはないぞ」
「!」
 繭が、構えを取るよりも早く・・・
 茜は、既に繭の間合いに入っていた。

 ドゴォ!

「みゅ・・・(注 ごはぁあ!!)」
「おっと、すまんすまん。やはり、力がうまくコントロールできんようだ」
 茜の長い角が、繭の身体を貫通していた。
「みゅううう!(注 調子に乗ってんじゃねぇ、このザコが!!)」
 ドゴっ!ドゴっ!ドゴっ!
 繭は、全力で茜の顔面を殴るが、茜はにこやかな笑顔のまま崩れない。
「やはり、戦闘力三万ではこの程度か・・・ちなみに、今のわたしの戦闘力は・・・」
「!?」
「五十三万です・・・参考までに、言っておきましょう」
「みゅうー!(注 ぬかせ、このガキャアアアア!!)」
 繭が、固めた拳を振り下ろそうとした時・・・茜は、頭を振って繭を空中に放り投げる。
「きええええええええ!!」
「!!」
 そして、その瞬間、茜は妙なポーズで叫んだ。
「みゅ!みゅー!(注 か、身体が動かない!)」
「ほ、ほ、ほ。超能力という奴ですよ。あなたは、わたしの許可がないと動くことすらできないのですよ」
「・・・!!」
「さて。どう料理しましょうかねぇ。お、この木で串刺しにしましょう」
 屋上の片隅に生えていたやしの木を、茜は超能力でへし折る。
「さーて。叫び声だけはあげられるように、声は出してあげましょう」
「!!」
「それでは。さような・・・」

 ズドォ!!!

 最後の力を込めようとした、その瞬間。
 茜の首が吹っ飛び、ころころと屋上の床に転がった。
「汚ねぇぞ、瑞佳・・・これは、わたしとあのガキとのゲームだったはずだ」
「フン。それは、てめぇらが勝手に決めたことだろう」
 瑞佳は、手刀についた血を、ぱ、っぱと払う。
「ク・・・まさか、下等なサイヤ人に殺されるとは・・・」
「フン。てめーに言われちゃおしまいだぜ!」

 ドゴォ!

 茜の首は、瑞佳の放った気孔弾によって消え失せた。
 その瞬間、繭にかかっていた超能力が消える。
「みゅー!(注 ちっ。余計なマネを・・・)」
「フン。この程度の手練れに殺られるようでは、おまえも先が見えたな」
 それだけ言うと、瑞佳は屋上から出た。
「みゅー・・・(注 絶対に逃さんぞ・・・浩平を殺した奴・・・)」

















第三章 上月澪

1
「・・・」
「や、やめてくれぇえええ!!」
 どが、どが、どがあっ!!
 男が、何もない虚空から生まれた影に、ぼこぼこに殴られる。
「ぐは・・・」
『弱い。つまんないの』
 澪は、スケッチブックにそう書きなぐると、ぼろぼろの男を一瞥して、その場を去った。
 上月澪。
 スケッチの能力を持つ彼女は、その人物の『影』を呼び出し、意のままに操ることが出来る。
 この学園の、裏番を占める女の子であった。
「みゅー・・・(注 待てや、コラ)」
 澪は黙って立ち止まる。
『何なの?』
「みゅ(注 浩平を殺した奴を探している。誰だか判らないから、実力者は全員殺すことにした。おまえも殺す)」
『やるの?いいの。やるの』
 にやりと、澪は口の端に笑みを浮かべた。
 どちらともなく・・・二人は、無人の校舎裏へ向っていた。

2
「みゅ・・・(注 てめーは、一瞬でバラバラにしてやるぜ)」
『いきがっていられるのも今のうちなの』
 澪は、スケッチブックを開くと、凄まじい勢いで筆を動かす。
「みゅ・・・?(注 何をしている、貴様)」
『現われよ、影』
 ぼわ・・・
 澪のスケッチブックから、ぼわぼわと黒い影が姿を現す。
「みゅ!?(な、何だ!?)」
『これは、あなたの影なの』
「・・・」
 影が、動く。
「!」
 ドゴォ!!
 影のモーニングスターが、地面を抉る。
「みゅ!(注 ふざけたマネをおおおおお!!)」
 繭は、影の身体を、手刀で貫く。
 ズボォ!!
「・・・」
「みゅ!(注 へ!何が影だ!大したことねえな・・・)」
 そこまで言って、繭は気付く。
 自分の身体に走る、激痛に。
「・・・」
 激しく出血していた。それも、繭が影につけた傷とまったく同じ場所に。
「みゅ・・・っ(注 なんだと・・・ど、どういうことだぁ・・・)」
『それは、影だって言ったの。影を攻撃することは、自分を攻撃することなの』
「・・・」
 しかも、影は傷を気にせず、また動きだす。
「みゅ・・・(どうすれば・・・?)」
『あはははは。結局、澪にはだれも叶わないの』
 びゅう!
 影のモーニングスターは、疲れをまったく見せない勢いで次々と襲いくる。
「みゅ・・・(影を攻撃したら、わたしにダメージが返ってきて・・・しかも、わたしだけがダメージを受けた・・・)」
『いつまで逃げ回っていられるかな、なの』
「みゅ・・・(と、いうことはッ!)」

 ドゴォ!!

『!!』
 なんと、繭はみずからの手でみずからの身体を貫いた。
「みゅ・・・(注 ぐはッ・・・!)」
 その瞬間、影の動きに変化が出た。
「・・・」
 繭の傷の場所から瘴気のようなものが溢れ、影が霧散する。
『バカな・・・なの。影の弱点を、見切った・・・』
 しかも、繭の傷はすっかりふさがっていた。
「みゅ(注 やはりな・・・影に手を出せば自分に・・・自分に手を出せば影にダメージが行くわけか。おまえの技を、誰も見破れないわけだ。自分を傷つけようとする奴なんていないだろうからな)」
『く・・・ピンチなの』
「みゅー・・・(さあ、覚悟は出来てんのかよ、このチキン野郎が・・・)」
『・・・フフフ!!』
「みゅ!(何がおかしい!?)」
『これを見るの』
 ばさッ。
 スケッチブックが空中に舞う。虚空で止まったスケッチブックは、まるでテレビのように、どこかの情景を写し出した。
「みゅ!(注 お、おかあさん!!)」
 写っていたのは、繭の母親であった。
『君の大事なママを、澪の使い魔がつけてるの。おまえが動けば、使い魔はママを殺すの』
 そう言って、スイッチのような物を澪は振りかざす。
 このスイッチを押せば、使い魔は繭の母親を殺すだろう。
「みゅ・・・!(注 く・・・卑劣な・・・)」
『ハハハハ!結局、澪には適わないの』
 澪は、身動き出来ない繭に近づき、ぼこぼこと殴り出す。
『アアハハハハ!!さあ、ひれ伏しなさい!澪の靴をぴかぴかになめたら、君の大事なママだけは助けてあげるわよ』
「・・・」
 だが、繭は動かない。
 やがて、ぽつりと呟く。
「みゅ(注 押せよ)」
『なんだと!?』
「みゅ(注 もういい。押せってんだよ)」
『く・・・くくくはははは!!所詮貴様はそのような冷酷な人間なのだ!!』
「みゅ(注 早く押せ)」
『言われなくても・・・』
 ぐ。澪が、スイッチに力を込める。
『おしてやる・・・』
・・
 だが、澪はスイッチをいつまでも押さない。
「みゅう(どうした?)」
「ばかな・・・身体が動かない」
「みゅ(フ・・・)」
 ぱんぱんと繭は、服の埃を払う。
「みゅ(注 貴様の身体に、シマネキ草の種を植えた。ようやく、根が全体に行き渡ったようだな)」
『・・・!!』
「みゅみゅ(貴様が最低の悪党でよかったよ。こっちも、遠慮なく冷酷になれる)」
『ま、待て!澪と手を組もう!そうすれば、フリーザぐらい・・・!!』
「みゅ(注 フン)」
『や、やめ・・・』
「みゅ(注 死ね)」

 ドバシュウウウ!!

 シマネキ草が一気に成長し、澪の身体を粉々にする。
「みゅう(注 フン。てめーと組んだぐらいでフリーザが倒せるなら、苦労しないぜ)」
 みしみし・・・
 澪の血を吸い、シマネキ草が花を咲かせる。
「みゅう(しかし、不思議だな。最低の悪党ほど、奇麗な花が咲く)」
 そう言い残して・・・繭は、そこを去った。


















後編へ続く


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