みゅ〜♪SS 『ゲーマーなしいな 第二話「おでかけ」』 作・ゆーき
今日は椎名と七瀬と俺の3人でゲームソフトを買いに行く日だ。
そんなハッピーな一日がこれから始まるというのに椎名と七瀬は
何だか朝っぱらからプリプリ怒っている。

 「あたりまえでしょっ!何よ!自分から11時集合なんて言ってたくせに
  折原だけ部屋でぐっすり寝てて!信じられないわっ!」
 「みゅーっ!こうへいー!」

ついさっき七瀬と繭のわめく声を目覚ましがわりに叩き起こされた挙げ句、
すごく乱暴に掛け布団を引っぺがされ、そこへすかさず椎名がボディプレスを
かましてきた。おかげで目は覚めたもののまだ眠たくて頭がボーッとする。
ボディプレスして俺の身体の上に乗っかったままの椎名が恨めしそうな目で
俺をジーッとにらむ。

 「うく〜こうへいやくそくまもらなくてずるい…」
 「そうよね〜繭。 全く、仮にもこの子の恋人兼保護者であるアンタが
  何で堂々と寝坊なんかしてるのよっ!全然良いお手本になっていないじゃない。」
 「こうへいがおうちに入れてくれないから
  るみねーちゃんとずーっとお外でまってたのに〜。」


とまあこんな風に、二人してお怒りになられてる訳だ。あー眠い。
まだ乗っかったままの椎名を除けてからノロノロを上半身を起こす。

 「いやー悪い悪い。昨日早めに寝ようとしたんだけどさあ、興奮して目が冴えちゃって。
  んで、全然寝付けないもんだからゲームやってたら案の定ハマっちゃってさあ。」

俺が椎名達との約束をスッポかして爆睡モードに入っていたのはこーいう理由なのだ。

 「それでようやく眠たくなった頃には既に朝8時を廻ってたって訳ね…。」
 「う〜っ、こうへいアホだもぅん。」
 「だってしょうが無いじゃんかよ〜。大体、由紀子さんは朝から玄関に鍵掛けて
  出掛けちゃってたし、玄関のドアホン鳴らしてくれれば飛び起きたのに…。」
 「みゅー!ならしたもぅん!なんかいもならしたの〜!」
 「そ、そうなの?全然気付かなかったけどなぁ。」
 「ちゃんとおでんわもしたのに〜!う〜ひどいー!」

いや、聞こえてなかったのだ、マジで。
それだけ俺の眠りは深かったんだなぁ。椎名達には悪いけど。
それにしてもいつもは「ほへ〜っ」としている椎名にしては今日はすごく怒ってる。

 「あっきれた! まあ、それだけ爆睡してれば気付かないわよねぇ。
  ところで折原?今何時だか判ってる?」

まだ目が少しボヤけてて枕元にある目覚し時計の文字盤と針がはっきり見えない。

 「んん〜えっと、(ゴシゴシ)12時くらいか?」
 「ちがうもぅん!もお13じなの!」

椎名が目覚まし時計を両手で掴んで俺の目の前に突き出してくる。
確かに短い針は13時を指していた。背中にふと冷たいものが走る。

 「…ま、まじ?」
 「まじだもぅん」
 「や、やべぇじゃん、俺!」

どへ〜2時間もオーバーしてたのか〜。そりゃ顰蹙モノだわ。
目の前突きつけられた驚愕の事実のおかげで俺の寝ぼけた頭は
今ハッキリと覚醒してくれた。

 「だからアタシらこんなに怒ってんの!
  全く、由紀子さんが13時になって帰ってきたから良かったけどさあ
  もし夕方以降だったらどうするのよぉ。」
 「いやーいくらなんでもその頃には起きてるだろう。」
 「またされる人の、みにもなってほしいもぅん。」
 「そうそう。」
 「ああ、まあ…悪かったよ。済まなかったな、待たせちまって。」

確かに2時間も待ちぼうけを食わされたんだもんな。二人の怒りはもっともだ。
先ずはまだ少し寝ぼけ気味の顔を何とかシャキッとさせ頭を下げて、
2時間もの間ずっと俺の事を辛抱強く待ってくれていた二人に対して
きちんと詫びを入れた。

 「とりあえずさっさと着替えて準備しちまうから、悪いけどあっち向いてて
  くれない?」
 「もー。着替えている部屋に女の子が一緒に居られる訳無いでしょ。
  だったら玄関で待たせてもらうわよ。ほら、繭もおいで。」
 「うんっ。はやくしてねーこうへいー。」
 「ああ、判ってる。」

という訳で俺はさっさと着替えと支度を済ませて、玄関で待ってもらっていた
椎名達と一緒に商店街へ繰り出していった。

今日の繭の格好は、下は黒のスパッツで上は大きなハムスターのプリントが印刷
されている白地のTシャツと少し色褪せた長袖のジージャン。
ちなみこのジージャンは俺のおふるで、椎名にはサイズが大きくて手首がスッポリ
袖の中に入ってしまう。手先を使う時はいちいち袖を少しまくらないといけないのだが
手首がおさまったまま、ぶんぶん振りまわすのが好きみたいだ。

とりあえず3人共まだ昼食も食べていなかったのでまずは近くのファミレスに入った。
道中、椎名が依然ムスッとして不機嫌そうだったのは俺の寝坊以上にずーっとお腹を
空かせていた事が原因だった様だ。徐々にファミレスに近づくに従い少しずつ
機嫌が良くなっていくのですごく判りやすい。
でも昔みたいに「みゅ〜おなかへった…」とか直接不満を口に出さないあたりは
成長している証拠だな。その分椎名には辛い思いをさせてしまった。だから

 「今日は俺のおごりだから思う存分食べていいぞ、椎名。」
 「わぁ♪みゅ〜♪」

なーんて格好つけたが最後、今朝の件もあって2人揃って全く容赦が無い。
こっちも今日に限って立場が弱いので止めづらいのがすごく痛い。

椎名はコーンスープとフレンチトーストとオムライスのシチューソースがけ
それにクリームソーダとチョコレートパフェのオマケつき。

七瀬はイタリアンハンバーグステーキのライス・サラダ・レモンティーのセットに
サンドイッチ。更にレアチーズケーキが加わった。

更に追い撃ちで、二人で食べるとかでフライドポテトも頼んでいた。

俺なんかチキンプレートとウーロン茶で済ませてるのに…。酷いや、みんな。
それにしても椎名も昔に比べてよく食べる様になった。
俺達と出会った頃なんてハンバーガー3つ食って満腹になる上、偏食までしてたのに。
よくここまで立派に成長したものだ。七瀬も今日の椎名の食べっぷりには呆然と
していたな。普段でもこんなには食べないのだろう。

 「みゅ〜もおおなかいっぱい。…えっと、ごちそうさま、でした。」

…今日もしっかり全部食べきってるし。今後のデートの食事代が切実になってくるな。

 「ぷは〜。ごちそうさまぁ。はうーさすがにサンドイッチは食べきれなかったわ。
  せっかくおごってもらったのにゴメンね、折原。」
 「いいよいいよ、気にすんな。残ったのは俺が食べちまうからさ。椎名も食べるか?」
 「ううん、もおいらない。おなかいっぱいだから。」
 「そういえばここのレストランの制服、変わってるわよねー可愛いけど。
  ほら、メイド服っていうの?あんな感じじゃない?」
 「(ギクッ!)」
 「あ、まえにこうへいのおうちにあそびにいったとき、あーいうの着たことある…。」
 「へ?なんで?どういう事?」

ぐあっ、椎名のバカっ!ああいった特殊な趣味は内緒にして欲しいのにぃ〜!

 「こうへいがあんなかんじのふく、もってた。」
 「…ふーん。そういう服を女の子に着せるのが好きなんだ〜。ふーんそっかぁ…。」

七瀬がじーっと俺の顔を覗き込む。視線がちょっと痛いかも。

 「な、何だよ何だよ!別にいいじゃんかよぉ!可愛いんだから仕方が無いだろっ!」
 「いや、別にいいんだけどね……わ、私もちょっと着てみたい、かな…って。」
「な、何ぃ!そうなのか!? 
  うーん、七瀬が着たがるとはちょっと意外だったなぁ。」
 「うん、いがいだった。」

七瀬にもなんとなく似合いそうだなとは思っていたのだが、頼んでも多分着て
くれないだろうと思っていたからこの結果は予想外だったのだ。
しかも七瀬から頼んでくるとは。七瀬も意外とディープなのかもしれない。
まあ、今回は繭の一言で俺の隠れた趣味がバレてしまったが俺自身がメイド服を
来た事まではバレていないのがせめてもの救いだ。

 「だったら、るみねーちゃんも着れば?」
 「え?いいの?でもそれって折原の服なんでしょ?」
 「俺は別にいいよ。今日ゲーム買ったら早速椎名の家でプレイしてみるつもり
  だったんだけど、その前に一度俺ん家に服を取りにいこうか。」
 「ほえ?でも、るみねーちゃんにふくのサイズ、あうの?」
 「大丈夫だろ。前に七瀬に服を借りた時もサイズは大丈夫だったんだから。」
 「うんっ。るみねーちゃんのメイドさん、はやくみてみたい♪」

何故だろう。椎名が嬉しそうにしている。
そういえば以前俺がメイド服を着た時にもそれを見て喜んでいたな。
…ひょっとしてメイドさんが好きなのか?椎名は。
うーん、着るのはあまり好きでは無いけど見るのは好き???
…やっぱり椎名は我侭だな。

 「そうと決まったらサッサと出発しちまうか。時間も押してる事だしな。」
 「そうね。行きましょ。とりあえず今日はどうもごちそうさま。」
 「みゅ〜♪ごちそうさま。」

とまあ、腹一杯になった俺達は商店街にあるとあるゲームショップへ足を運んだ。
この店は結構大きな店でゲーム雑誌のソフト売り上げランキングの集計店でもある。
品揃えも結構良く、時々古めのソフトのワゴンセールなんかもやっている。
あとソフトの予約特典なんかも豪華で色々オマケを付けてくれるのもポイントだ。
特にポスターのオマケが豪快で、ときどき全く関係ないゲームのポスターを
2,3本つけてくれるので持って帰るのに邪魔になってしまう事がよくある。

 「わあ♪ゲームがいっぱい♪みゅ〜♪」

早速椎名が物色しはじめた。七瀬も後ろからついてきて一緒に見て廻っている。
俺はそんな2人を横目で見ながら目的のソフトを探し始めた。

 「ふーん、結構数はあるみたいね…。」
 「うんっ!すっごくたくさんある♪」
 「そういえば七瀬はゲーム機持ってるんだっけ?」
 「まあね。あんまり使ってないけど。」
 「ほえ?るみねーちゃんは、どんなゲームするの?」
 「私?そうねぇ…ロールプレイングゲームとかノベルタイプのアドベンチャー
  ゲームが好きかなぁ。あわただしいゲームはあまり好きじゃないわね。」
 「なんだ七瀬らしくないなあ。俺はまたてっきり「モータルコンバット」みたいな
  フェイタリティでブラッディな格闘ゲームが好きなのかと思ってた。」
 「…確かソレって血がドバドバ飛び散る残酷格闘ゲームでしょ?
  そんなグロいゲームなんて嫌よ。大体なんでアタシがそんなの好んで遊ぶのよぅ。」
 「いやー何となく。とはいえよくそんなもん知ってたな。」
 「ほえ〜るみねーちゃんすごいもぅん。」
 「いや、前に何気に買ったゲーム雑誌に載ってたから…。」
 「うくー。るみねーちゃんもゲームがすきなのかとおもった…。」

ちょっと残念そうな椎名。長森はゲーム機を持っておらずゲーム自体もそんなに
遊ばないので椎名にしてみれば七瀬の様な、一緒にゲームをしてくれそうな相手を
見つけることはとても大事な事なのだろう。
 
 「あ、別にゲームは嫌いじゃ無いけど、こーいうのって一度のめりこむと
  それ以外の事に目がいかなくなっちゃうでしょ?
  それが嫌だからほどほどにしか遊ばないのよ。」
 「ほへ〜。るみねーちゃんえらいもぅん。」

七瀬が椎名に誉められている。なんとも不思議な光景だな。

 「えへへ、そうなのかなぁ…ありがと、繭。でも繭もゲームは程々にして
  おかないと駄目よ?ちゃんと勉強もしないとね。」
 「うんっ。ちゃんとわかってるもぅん。べんきょうだってしてるし、
  かんじだってたくさんよめるもぅん。」
 「でも椎名は漢字書くのはすっごい苦手なんだよな〜。」
 「うーっ、ばらしちゃだめー。」

俺の腰にしがみついてワーワー喚きながらじゃれつく椎名をズルズルとひきずりながら
お目当てのソフトがあるかどうか、まずは新品ソフトの棚から一通り探してみる事にした。
その後ろを「やれやれ」といった顔をした七瀬がついてくる。

椎名の場合、漢字の読み取りに関しては人並なのだが、書くのは苦手なのだ。
そもそも字が汚いというのもあるのだが、複雑な漢字は全然覚えない。
っていうか覚えようとしないのだ。根本的に嫌いだからなのだろう。
国語の勉強も文章を読むのは好きみたいなのだが、書くのは大の苦手で
作文の宿題なんかは親友のみあに色々と手伝って貰っていたそうだ。
でもそのくせ自分の住所や名前はちゃんと書けるのだ。

 「ふんふふんふふふん♪っと…あったあった!このソフトが欲しかったんだよ〜。」
 「ほえ?…えっと、『さとみのなぞ』?…うくーすごいあやしい…。」

俺が今日買おうと決めていたソフトがこの「里見の謎」だ。
とにかくパッケージのイラストのインパクトがかなり強烈で、
『本当に売る気があるのか?』と疑ってしまうくらい絵のデッサンが狂ってる。
ゲーム雑誌の読者コーナーの投稿イラストの方がよほどマシに見えてしまう。

 「た、確かに…折原、このゲーム本当に大丈夫なの?」
 「ん?あ、ああ。まあな。」
 「…こうへい〜これどんなゲーム?」
 「表紙にシールが貼ってあるだろ?」

ビニールのパッケージに赤くて丸いシールが貼ってあった。
パッと見るとショップ側で貼った様に見える。
普通、ショップ側として客に勧めたい商品にはこういったシールを
貼る事が多いのだ。そうすれば客側も安心して購入出来る。だが…。

 「えっと、何々…『オススメRPG』?…このシールってこのお店が貼ったの?」
 「いや、多分違うだろう。出荷する時点で貼ったみたいだな。」

シールにはソフトのシリアルナンバーとおぼしきものが書いてあった。
これのおかげで十中八九メーカーで貼った物と断言できる。
大体こんな怪しいパッケージのソフトに『オススメRPG』なんていうシールを
貼るゲームショップなんてあるハズが無い。しかもシリアルナンバーまで書いて。

 「…ちょっと〜それって大丈夫なの?」
 「さあな。」
 「ほえ?これをかうの?」
 「ああ、そうだよ。椎名が遊ぶゲームだからな。」
 「うく〜なんかあやしいゲーム…。」

うーっ、と唸りながらあからさまに疑いのまなざしを俺に向けてくる。
それにRPGみたいな頭を使ってじっくりプレイするゲームはあまり椎名の
好みではないのでちょっと不満そうだ。
それになによりもこのパッケージだしな〜。椎名もさすがに警戒しているな。

 「いやーひょっとしたら面白いかもしれないぞ?
  実際遊んで見ないと出来の良さなんて判らないからな。」
 「う〜〜〜…うんっ。だったらあそんでみる。」
 「よし。じゃあまずこのゲームは買っていくからな。」
 「ち、ちょっと折原…本気でソレを買うの?」
 「ああ、勿論さ。」
 「みゅー。あそんでみたいもぅん。」
 「ほら、椎名もこう言ってるんだし、大丈夫だよ。気にするな、七瀬。」
 「…何か不安なんだけどな〜。」

ようし、これでとりあえず計画の第一段階は終了した。
実はもう一つ欲しいソフトがあったのだがそれはこの店には無かった。
まずはレジで今見つけたソフトの精算を済ませから他の店をあたってみる事にした。
なかなか見つからなかったが4,5箇所回った所でようやっと発見出来た。
大分日も暮れ、とりあえず残りの1本をゲット出来た俺達は一度俺の家にメイド服を
取りにいってから颯爽と椎名の家に向かったのであった。


さあ!これからが本番だぜ!!! な、椎名?


「みゅー♪」


あとがき

どうもこんにちは。このSSの作者の「ゆーき」と申します。
今回は全4話(予定)で構成されるSS「ゲーマーなしいな」の第2話です。
タイトル通り、おでかけして買い物を終えるところまでを書いてあります。
今回は七瀬も結構目立っており、繭の影が薄くならないよう気を遣いました。
可愛い繭を書くのも楽しいですし、七瀬を書くのも楽しいです。
また今回のSSでは七瀬と繭の交流も描いてあります。
これに関しては賛否あるとは思いますが繭も七瀬のおさげを引張っていた
頃から1年半以上も過ぎ内面の変化も起きて来ている頃だと思いますので
その点をご理解いただけると助かります。繭だって成長してるのですから。

さて、次回第3話からは繭のバカゲープレイ記になります。
どうか皆様お楽しみに。


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