みゅ〜♪SS 『ゲーマーなしいな 第一話「おさそい」』 作・ゆーき
最近になって俺は椎名の意外な一面を知った。
こいつ、実はTVゲームが大の得意だったのだ。
そもそも普段から遊んでばかりだったので反射神経や運動神経は
かなり優れているらしくまさに遊びの天才といった感じだ。
 
きっかけは前に椎名とデートした時、何気に入ったゲーセンだった。
体感ゲームやらアクションゲームをやらせてみると上手いのなんのって。
あとシューティングなんかも上手かったかな。
ただリズム感はあまりよくないみたいでダンス系のゲームとかはからっきしだった。
 
椎名の家には家庭用ゲーム機が無いみたいなので俺のを貸してやったら
案の定気に入ってくれた様で色んなゲームをして遊んでいる。
これらのゲームは俺が持っているヤツの中から椎名向けに厳選したソフトばかりだ。
しかも華穂さんも椎名と一緒になってゲームして遊んでいるらしい。
これなら俺もわざわざ貸し出した甲斐があるというものだ。
 
そんなさなか俺はふとした事から、人は選ぶが独特の「味」があってイカすゲーム、
通称「バカゲー」を椎名にやらせてみたくなった。
色々な意味で素朴で純粋な椎名の感性にはどの様に映るのだろうか。
それがすごく気になったのだ。
 
とはいえそのテのソフトは実は全然持っていなかったりする。
危なそうなシロモノはパッケージからして既に怪しいオーラを発しているので
大抵の人はその時点で購入を躊躇うのである。現に俺もそうだった。
少ないこづかいから捻出して買うわけだから嫌がおうにも慎重になるのだ。
ただ、最近になってそういった「バカゲー」を特集した本が発売され、その
内容のバカさ加減を面白おかしく解説してくれてたりする。
俺が椎名にそういったゲームをやらせてみたくなったのもこの本をたまたま読んだ
のがきっかけだたりする訳で…。
メイド服の一件といい、つくづく俺もチャレンジャーだな。
 
という訳で先ずは椎名に電話してこの話をしなくてはいけない。
椎名の家の電話番号は、もう何回もかけたからしっかり覚えてある。
 
プルルルルル プルルルル 
 
「(ガチャ!)はい、椎名でございます。」
「あ、もしもし、折原ですけども…」
「あら、浩平君?どうもこんにちは〜。」
 
あ、華穂さんが出たのか。椎名が出なかったという事は何か忙しいのか?
 
「はい、こんにちは〜。ところで…」
「ええ、繭ね。ちょっと待っててね…。『繭〜浩平君から電話よ〜』」
 
もうかれこれ何度も電話かけているものだからでここいらへんの応対は
至ってスムーズかつスピーディだ。まさにツーカー。
 
 「(ドタドタドタ)…みゅ〜♪こうへい〜♪」
 「お!椎名か。元気してたか。」
 「うん、げんきしてた。」
 「今日は何してたんだ?ゲームばっかじゃ駄目だぞ?」
 「うー(ぶるんぶるん)ちがうもぅん。おべんきょうしてたもぅん。」
 
お、椎名にしては珍しい。ゲームばっかりやってて怒られたのかな?
 
 「ああ、悪い悪い。偉いぞ椎名。んで、明日なんだけどヒマか?
 ゲームソフト買いにいくんだけど、付き合わない?
 椎名にちょっと遊んでみて貰いたいゲームがあってさ。」
 「ゲーム?うんっ!いっしょに行く!」
 
何か嬉しそうだな。誘ってみて良かった。
 
 「そっか。じゃあ俺の家に11時くらいに来てくれ。判った?」
 「うんっ。11じ?」
 「そう、11時。あ、あと七瀬も来ると思うから。」
 「ほえ?るみねーちゃんも来るの?」
 「ん〜(実は七瀬にはまだこの話はしていない。でも、いいや。何とかなるだろう。)
  何か七瀬も繭に会いたがってたし。別にいいだろ?」
  「わぁ♪みゅ〜♪」
 「お、嬉しそうだな。七瀬の事好きなのか?」
 「うんっ。みあも、るみねーちゃんも、みずかおねえちゃんもみんなすき。」
 
何故か七瀬と長森とでは「おねえちゃん」の付け方が違う。何か不思議だ。
 
 「そうかぁ…椎名、七瀬は優しくしてくれるか?」
 「ん〜〜うんっ。やさしくしてくれるよ。」
「へぇ〜っ。あの七瀬がなぁ…。お前なんか昔よくあいつの髪の毛をぐいぐい
  引っ張って困らせてたけどな〜。」
 「う〜っそのことはもういいのっ。いまはひっぱってなんかないもぅん♪」
 「そうか。それなら七瀬も大助かりだな。」
 「うんっ。……う〜。もおでんわ切っていいの?」
 「ん?ああ、もういいよ。あ、あと明日のお昼、美味しい物ご馳走してやるから
  楽しみにしてな。じゃあ、また明日な。バイバイ、椎名。」
 「みゅ〜♪ばいば〜い(ガチャン!)」
 
さて、と。次は七瀬か…アイツ、来てくれるかな?
 

プルルルルル プルルルル 
 
 「(カチャ)はい、七瀬でございます。」
 「もしもし?米屋ですけども、今お嬢さんが履いている下着の色は何色ですか?」
 「…………………………………………………………………電話切るわよ、折原。」
 
ぐあっ、あの七瀬にしてはいつになくクールな応対だ。いつものヤツとは一味違うぜ。
 
 「すまん、軽いジョークだ。許してくれていいぞ。」
 「何でアンタに許しを得て謝らないといけないのよっ!」
 
ほら、早速「地」が出た。相変わらず七瀬は怒らせると面白いなぁ。…って鬼か、俺は。
 
 「まあまあ。とりあえず俺が悪かった。面目ないッス。」
 「あら、今日は珍しく殊勝ねぇ。何か裏がありそうな…。」
 「う、鋭いな。」
 「まあ、アンタの行動パターンも長森さん程じゃあ無いけど読めてきたしぃ。」
 
どうせ長森から色々教わったんだろう。でなけりゃ長森クラスの対応は
そうそう出来まい。
 
 「ああっ、かつて登校時に俺の腹に躊躇無くカウンターで頂心肘を打ち込んできた
  七瀬はどこへ行ってしまったのだろう…。はあ、せつないなぁ。」
 「アレはアンタがやったんでしょうが!」
 「なあ七瀬、頼むから本題に移らせてくれよぉ。俺ひ弱だから受話器持つのが辛いんだ。
  それと、昔七瀬にへし折られた腕の古傷が…。」
 「嘘つくなアホッ!大体アンタが話を脱線させてるんじゃない!」
 「何ィ!そうなのか!?」
 「そうなのよ!はいはい理解した?それならとっとと本題に移ってちょーだい。
  今日は一体何なの?」
 「ん。明日椎名といっしょに遊ぼうぜ、って話。ちょっと買い物行くんだけどさ。
  七瀬もどお?昼メシおごるからさ。」
 「え〜明日?別に用事は入っていないけど…。」
 
よっしゃ!これなら七瀬もオッケーそうだな。
 
 「んじゃ明日俺ん家に11時集合。じゃヨロシク。」
 「待てぃ!勝手に決めるなあっ!」
 「でも来れるんだろ?」
 「ん〜まあ、そりゃあそうだけど…。繭も来るんでしょ。いいわ、付き合ったげる。
  そんで繭を連れて一体何を買いに行くの?洋服か何か?」
 「ゲームソフト。」
 「はあ?ゲームソフト?何の?」
 「それは当日まで内緒だ。まあ、椎名に遊ばせるヤツなんだけどな。」
 「ふーん。なるほどね。しっかし折原も本当、繭をトコトン可愛がるわね〜。」
 「まあな。椎名の事、好きだしな。七瀬だってそうだろ?」
 「それは、まあ…ふふっ、どうなのかな…私もよくわかんないんだけどね。
 …とまあ、それは置いといて。んじゃ、とりあえず明日11時に折原の家に行けば
  いいのよね?」
 「ああ、悪いけど頼むわ。」
 「うん、判った。じゃあ、また明日ね。」
 「おう、遅刻すんなよ。」
 「あはは、大丈夫よ。じゃあね、ばーい。(ガチャ)」
 
七瀬もなんだかんだ言って椎名の事は気になるみたいだ。
そもそもおさげを引っ張られるのが嫌だったんでそれさえしなくなれば
妹みたいに可愛く見えてくるのかもしれないな。
俺が1年間姿を消していた間にも時々、長森と一緒に椎名の
相手をしてくれてたんだそうだ。その七瀬は、
 

『あの子、自分の学校に通うようになってからずいぶんと変わったわよ。
 何ていうか、他人との距離の取り方が判ってきた、っていうか…。
 なんか学校で親しい友達が出来たみたいでさ。
 それからよ、我侭とかあまり言わなくなったのは。
 他人の痛みや苦しみが判るようになったのかしらね。
 まあ、おかげで私も髪の毛を引っ張られなくなったから助かったけどね。』
 
なんて言ってたっけな。
現在、七瀬も長森も大学行ったりバイトしたりで忙しい中、時々椎名の様子を見に
行っているみたいだし、繭にも学校の友達が出来たし。
椎名を取り巻く環境も昔に比べ大分変わって来ている。
あいつもそれに合わせて一生懸命自分を変えようとしている。
 

他人に心を開かずいつも自分の殻に閉じこもっていた椎名。
 
己の欲望を押さえる事さえぜず、ただ思うがままに何かを欲した椎名。
 
癇癪を起こすとあたり構わず泣き喚いていつも誰かを困らせていたいた椎名。
 

椎名が親友であった「みゅ〜」を失った瞬間から
もっと人間らしく生きていく為に自分の意志で一生懸命に戦ってきた。
自分の居るべき場所へ帰り、「みあ」という人間の親友を得、長森や七瀬そして
母親である華穂さんに見守られながら少しずつだけど成長してきた。
そして俺とは「恋人」という決して切れる事の無い堅い絆を結んだ。
 
椎名もまだまだ一人前では無いけれど、あいつが自力で自分の意志で前へ前へと
進もうとしているのは間違いない。ゆったりとではあるがそれは着実な進歩なのだ。
俺達は時々、あいつの背中をそっと後押ししてやりながら見守ってやればそれでいい。
そして俺自身は「恋人」としていつまでも椎名の側に居よう。
俺も椎名もお互いを必要としているのだから…。
 

…とまあ、そんな椎名が最近は現在ゲーマーとして目覚めつつある訳で…。
そーいう成長でも大丈夫なのかな〜?と、ふと不安になってしまう俺なのであった。
 
さて、と。明日の買い物が今から楽しみだな。今日は明日に備えてさっさと寝てしまおう。
じゃ、おやすみ………。
 
…………………………………
 
……………………………………………
 
………………………………………………………
 
………………………………………………………………どへ〜今夜は何か眠れない〜。
 

(第二話へ続く)
 


あとがき
 
どうもこんにちは。このSSの作者の「ゆーき」と申します。
今回のSSは「バカゲー」をテーマにした4話構成のSSに
なっております。まあ、実際のゲームプレイは第三話以降
なので一、二話は導入部になってしまっています。
今回はテーマがテーマなだけにネタ的に万人向けでは
無いのですが、笑いながら読んで頂けると幸いです。
今回はなんとなく椎名と七瀬を組ませてみましたが
どうでしょうか?これに関する感想も頂けると嬉しいです。
では、第二話をお楽しみに・・・。


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