『椎名といっしょ{第零章}』 作・陣 星風
こうへいが帰って来た。
ハンバーガー屋さんでずーっと、ずーっと、ずーーーっと、待ってた。
「椎名、いまから合図をしたら俺達は恋人同士だぞ。」
「うんっ!」
とっても嬉しい。みゅーが死んでからずっとひとりぼっち・・・。そう思ってた。
こいびとどうし。ずっと、いっしょにいてくれる・・・。そう思ってた。
「何してるの。こんな所で?」
みずかおねーちゃん。
「いたたたたた。引っ張らないでよ。もう・・・。」
みゅーみたいな、おこるとちょっとこわいおねーちゃん。
「本当に悲しい時はね、泣いたって構わないのよ。繭。」
おかあさん。
みんな、みんな、大切なひと。でも、だれもこうへいのこと、おぼえてない...。
「俺の恋人なんだろ、椎名。なら泣くな。」
まゆ、泣かなかった。がまんしたよ。おかあさんのひざでいっかいだけ、ないたけど・・・。
なかないで、がまんして、がんばったら、こうへいがかえってきてくれるって。
みんながこうへいのことわすれても、まゆがわすれなければ、もどってきてくれるって。
そうしんじて...。
がんばってがっこうにいった。でも、たのしくない。みずかおねちゃんも、みゅーも、おかあさんも、
なにより、こうへいがいなかったから......。しらないひとばっか...。
こわい・・・。きゅうしょくおいしくない・・・。へんなこといわれる・・・。
もういや・・・。わすれたい・・・。いきたくない・・・。
でも、でもね、ともだちができたんだ。みあっていう子。とってもよくしゃべる子。
いつもみあといるとたのしい。まゆのことはげましてくれる。
「ふうん。じゃあ、その彼氏のおかげで学校に来れるようになったんだ。」
「うん。」
「繭の彼氏かー。興味があるなー。どんな人だったの。かっこよかった?」
「うん。」
「やさしかった?」
「うん。」
「でも、どっか行っちゃったんだ。」
「・・・うん。」
「繭の彼氏、こうへいって言ったっけ?黙ってどっか行っちゃうのは酷いけど、必ず戻ってくるよ。
だって繭がこんなにも思っててくれるんだもん。繭が信じてあげなきゃ、もどってこれないよ。」
「うん!」
待っているの、つらい。でも独りじゃない。みあがいてくれる。
だから、あのときより、もっとがんばれる。まってられる。
そして、あのときみたいに、きっとむかえにきてくれる。
そつぎょう式の日。いろんな人にありがとう。そしてさようなら。
「卒業おめでとう、椎名。」
えっ。
「大人になったな。」
いろんなひとにありがとう。ずっと、ずぅーーーっとみまもっててくれたひと。
「急にいなくなって悪かった。」
「みゅっ、みゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ。」
「泣くな。くっ、苦しい。そんな強く抱きしめるな。そんな事しなくても何処にも行ったりしない。」
「うっ、うっ、こうへい。ずっと、ずっと、ずっーーーとまってたのに。」
「わっ、悪かった。俺が悪い。でもな椎名、辛かったのはお前だけじゃない。
俺だってお前に逢えなくてどれだけ辛かったか。
だが、今日から俺は、お前だけの為にそばに居てやるから。ずっと。ずーーーっとだ。
お前が俺の事を、忘れずに思っててくれたから。俺もお前の事をずっと思ってたから。
だから俺はここにいるんだ。」
「ほんと。」
「ああ、本当だ。」
「ぜったい。」
「おう、絶対だ。」
「みゅーっ♪」
日常は永遠に続く、と思ふ人はいるだろう。誰もが明日が無くなるとは思わない。
だが永遠など有り得ない。明日が今日と同じと言う事は無いのだ。
いや、厳密に言えば永遠は存在する。少なくとも俺はそう思っている。
変わらないモノがある。詭弁かもしれないが俺はそれを知っている。
ただ人の生きる時間には限りが在る...。
だから、永遠を感じる事も、証明する事も、出来無い。不可能だ。
だが、逆に限りが在るからこそ、
人は様々な感情、経験、そして人との関わり合いを大切にする事が出来る。
「今まで遊べなかった分、沢山遊ぼうな、椎名。」
「みゅ〜っ♪」
すべてはここから。(序章、完。)